新人ちゃんとリーダーさん
ふぅんと呟いて、右腕を九頭見がもたれ掛かっているソファの背もたれへと置く。それに気付いてはいるのだろうけれど、ちらりと腕を一瞥しただけで特に反応らしい反応がなかったからそのまま肩に手を置いた。
「っ、あ、の、」
「で」
「え」
「具体的にどうすれば、相手の男に別れを意識させられんだ」
さすがに肩に置いた手には反応したらしい。けれどもう遅いと言葉を遮れば、「え、あ、そうですね、ええと、」とお人好しなこの女は再び思考の渦へと意識を飛び込ませた。
チョロい、隙だらけ、疑わない。こんなんでこいつ大丈夫なんか?とうーうー唸りながら策を練っているであろう九頭見を盗み見る。
まぁ大丈夫じゃねぇから男にパラサイトされてる挙げ句、俺にこうやって連れ込まれてんだよなぁと自問自答していれば、何か思い付たのか、聞いてください!言わんばかりの視線を俺へと向けてきた。
「あの、浮気を疑わせるのとか、どうですか?あんまり、良くない事ですけど……用がなくても頻繁に連絡取り合ってたり、出掛けたりしてたら、何か怪しいな、ってなりませんか?」
連絡、は、バイト関連かご飯会の事でしか取ってねぇけど、週に一度はてめぇを引きずり出してるはずなんだがな。効果ねぇんだよな。いや、別れ話になってねぇだけで疑われてはいるのか?
「……週に一回は飯行ってる」
「あ、そうなんですね」
「けど、効果ねぇよ」
なぁ、どうなんだ?
そう言って探りを入れたい気持ちはあるけれど、疑われてるどころか全然らぶらぶですよー!なんて惚気られた日にゃ、こいつを監禁する自信しかねぇ。
出来れば穏便に事を運びたい。はぁ、と小さくため息をついて、持っていたビールの缶をテーブルへと置けば、視界の端で梅酒の缶を持っている九頭見の細い指がもじもじと動く。
「……鬼頭さんの方が絶対、いい男なのに、勿体ない、です、よね」
「……は……何。慰めてくれてんのか」
「……慰めじゃ、ないですよ……私は、本気でそう思ってます、し、」
赤らんだ頬に、いつもより若干潤んだ瞳。
ご飯会でも最初の一杯しか酒は飲まねぇから弱ぇんだろうなとは思っていたけれど、まさかここまでとは。俺はちゃんと聞いたぞ。「腹減ってるか?」ってな。空きっ腹に酒はやめろよ、マジで。
なんて、今さらか。
「……本気で、ね」
「はい、本気、です!」
えへへ、と柔い笑みを浮かべる九頭見を見て、堪えきれず口元が歪んだ。