新人ちゃんとリーダーさん

 待ち合わせが十九時。鬼頭さんの家に着いたのが二十時前で、そこからだいたい一時間くらい話をしていて。と、そこまで自分の行動を振り返って、帰らなくては!と強迫観念に駆られ、ドクリと心臓がはねた。
 やばい、やばいぞ。
 鬼頭さんを起こさないように巻き付いている腕からそろりと抜け出せば、腕の代わりに鈍痛が腰元へ巻き付いて、ひやりとした空気が肌を掠めた。
 あ、裸だ。と、それを認識した途端、熱が集まって顔だけが熱くなる。
 服。私の服はどこですかと辺りを見回せば、よれたシーツとベッド、そして床に放置されている鬼頭さんのであろうトレーナーらしき物が見えた。しかし、だ。肝心の私の服がない。裸のまま床に降りて、腰の痛みに耐えながら這いつくばって探して見たけれど、開封された避妊具の包装とこれまた鬼頭さんのであろう男性用の下着が見つかっただけで、私の物は何ひとつない。
 はて、何故だ?思い出せ、思い出せ、と唸りながら思考をフルで稼働させた。瞬間、またもや脳内で再生される、昨夜の情交。口は勿論、額や首、座骨など至るところにキスされて、脱がされて、それで、それで。
 あ、リビングか。
 思い出すと同時に気付いた。ここがリビングではない事に。もしかしなくても運ばれた?裸のまま?ほぉう、なるほど。十中八九、ベッドがあるのだからここは寝室なのだろう。問題は、部屋を見渡した限りではひとつしか見当たらなかった扉の向こう側が果たして何なのか、という事だ。リビングに続いてくれているのならば良いのだけれど、廊下だったら。いや、絶望しかない。
 昨夜、玄関から入って廊下が真っ直ぐのびていたのは見ていたけれど、直ぐにリビングへと案内されたから詳しい間取りは把握出来ていない。マンションの間取りなんて、あらかた決まっているようでまぁまぁパターンがあるから楽観は出来ない。とはいえ、服がない事には帰れないのだから、結局は扉の向こう側がリビングだろうが廊下だろうが私は裸で突き進むしかないのだ。
 いやもうこれは不可抗力ですよね。うん。と、覚悟を決めて立ち上がろうとした。

「……なぁ」
「っひ、あ、」
「んなとこで、何、してんだ」

 瞬間、左肩にずしりとした重みがかかり、さらりとした毛先が首筋を撫でた。
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