新人ちゃんとリーダーさん
ぐりぐり、ぐりぐり。左肩のところで何かがうごめく。いや勿論、うごめているのが鬼頭さんの頭だろう事は分かっているのだけれども。
「え、あ、あの、え、う、」
「起きんの、まだ、早ぇよ、」
寝ぼけているのだろう。声が掠れていて、いつもより喋るスピードがゆっくりで、そんでもって、柔らかい。
ばくん、ばくん、と心臓が暴れ狂う。もしかして私を好きな人と勘違いしてるのかな?と思ったりもしたけれど、がさごそしていたからただ単に起こしてしまったのだろうなと結論付けた。
「す、すみません、起こして、しまって」
ゆっくり言葉を吐き出しながら、ゆっくり身体を右へと傾けて「離れてください」の意を態度に含ませつつ、左肩が軽くなったのを確認してから、ゆっくり顔を左方向へと動かした。
「…………別に、」
暗さに目が慣れてきたのだろう。起きたばかりの時より幾らかはっきりと見えるようになった視界の中で、ベッドにうつ伏せで寝転んだまま眉根を寄せた鬼頭さんと目が合う。
拗ねている、のか?いやでも拗ねる要素なんてどこにもないから違うよね。
「えと、寝ちゃって、ごめんなさい。あの、私、帰りますね」
「……は?」
「あの、服、リビング、ですよね……?取りに行きた」
「泊まれよ」
「え」
「……んで……帰んだよ……泊まりゃ、いいだろ」
のそりと起き上がり、不機嫌そうな声を吐き出す鬼頭さん。いや、不機嫌そう、というよりも明らかに不機嫌そのものもので「なぁ」と再度、私に問いかけながらその場で胡座をかいた。え待って下着!と一瞬焦ったけれど、どうやら床に落ちていたものとは別の新しい下着を履いていたようで、視線の先でそれを確認するや否やよく分からない安堵が全身を巡る。履いてた、良かった。
「……ごめんなさい。私、」
視線をそこからずらし、伏せる。本音は泊まりたい。泊まれよと言ってくれたのだ。お言葉に甘えたい。是非とも甘えたい。
「……帰らないと、その、」
「……」
「……起きて、待ってると……思うので、」
だけど、家でハリーさんが待っているのだと思ったら、頷くなんて出来なかった。