新人ちゃんとリーダーさん

「……別に、一日くらい、」
「っだ、駄目です!」
「……」
「……嫌われ、たく、ないんです、」

 基本的にハリーさんは、二十三時から四時頃まで起きていて、それ以外の時間は寝て過ごしている。対して私は二十四時までには就寝する事を心掛けているので、ハリーさんが起きる二十三時から約一時間は運動もかねて部屋の中を散歩をするのがルーティンとなっている。だから、私は帰らなくてはいけなかった。
 たった一日、されど一日。一年半経ってようやく、鼻先を擦り付けてくれるくらいにまで仲良くなったのだ。自分の欲を優先してハリーさんの信頼を損なうわけにはいかない。時計を確認していないけれど、二十三時はもうとっくに過ぎているだろうから手遅れだと言われればそれまでだが。だからといって「じゃあもういいや」と言えるほどメンタルは強くない。
 ごめんなさい。
 気を使ってくれたのに無下にしてしまう事を再度謝って、とりあえず隠せるとこは隠してリビングに行こうと決意する。

「これ」
「っ、え、」
「着ろ」
「や、でも、」
「いいから、着ろ。下着だけ自分の()けろ」

 今度こそ、と、立ち上がろうとした瞬間、ばさりと頭に乗っかった何か。髪の毛を滑り、ずるりと落ちてきたそれをキャッチして広げれば、当然自分のではないトレーナー。床に落ちているのとはまた別の物で、どこから出してきたのだろうと疑問に思いつつも、真っ裸脱却が最優先事項だと脳みそは叫ぶ。
 お礼を告げ、もそりとそれを頭から被ればやはりサイズが大きくて、手はなかなか袖口から出てこないし、裾は膝の少し上辺りまであって、もはやワンピースだ。鬼頭さん、身体大きいもんなぁ~と立ち上がって服と己のアンバランスさをまじまじと観察していたら「んん"っ」と咳払いをされた。余計な動作をするなと言いたいのだろう。彼シャツならぬ彼トレーナーに浮かれました。申し訳ない。

「すみません、えと、お借りしますね、」

 へらりと笑って、平常を装う。
 大丈夫、大丈夫。勘違いなんてしない。分かってる。

「じゃあ、私は、これで」
「……送る」
「え」
「送る」
「え、いや、でも、」
「送る」
「……」
「俺は、お前との事をなかった事にするつもりはねぇ」
「……え、あ、え……と、」
「譲る気もねぇしな。だから、送る」

 だけど鬼頭さんは、私に釘をぶっ刺したいらしい。
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