新人ちゃんとリーダーさん
小さく息を吐いた。
人間、諦めが肝心だ。「本当の本当に散らかってますけどひかないでくださいね!」と念を押して、「ん」と短く返されたそれを信じ、いざ、オープン。
答えてくれる人間などいないけれど、癖になっている「ただいま」を吐き出しながら靴を脱ぐ。来客用のもこもこスリッパを出して、真っ直ぐに伸びた廊下を歩き、突き当たりのリビングを目指した。
「こっ、ここに、どうぞ、座ってください」
たどり着いたそこで真っ先に目に入る、背もたれにかかけられたままのカーディガンや薄手のパーカーを腕一本で素早く回収し、へらりと笑う。
きょろり、リビングを見回した鬼頭さんは、続き和室になっている間取りが物珍しいのか閉ざされた襖を一瞥したあと、大人しくソファへと座ってくれた。
一人ファッションショーで散らかした以外は、普通だと思う。特に何も言われないからまぁいいかと鬼頭さんにコーヒーか紅茶か緑茶の選択肢を投げ掛ければ、喉など乾いていなかったのか「要らねぇ」と一蹴される。
え。なら何しに上がり込んだの。
などと言えるわけもなく、かといって次の一手がすんなり浮かぶわけもないから、どうしようかと視線を逸らせば、大きなため息がソファの上で吐き出された。
「……起きて待ってると思う、っつってたよな」
「……え、あ、はい」
「見当たんねぇけど、そっちに居んのか」
するりと動いた鬼頭さんの目線を追いかけたその先には、閉ざされた襖。その向こう側は寝室で、ハリーさんのお家も置いてある。収納に特化した優秀な押し入れのお陰で、畳の上一面に敷いたラグにベッド、姿見、ハリーさんのお家以外は置いていないので、ハリーさんの散歩部屋もかねている。
「……はい。そっちに、居ます、けど、」
まさか、ハリーさんに興味が?
そう思ったけれど、押し入れは開けっ放しだしベッドの上は衣服に占拠されている。
「あ?けど、何だよ」
「その、寝室、なので、あの、」
「……」
「よ、用がないなら、あの、今日は、その、」
散らかり放題の玄関とソファを見られはしたけれど、無駄な足掻きなのかもしれないけれど、寝室の惨状までも見られるのは是非とも阻止したい。