新人ちゃんとリーダーさん
「好きなの。返事は別に、いらないから、ね? チョコは受け取ってよ」
イライラは既に最高潮だった。元より気は長い方じゃねぇ。
「いらねぇっつってんだろ!」
「っ!」
馬鹿のひとつ覚えで差し出してくるそれを、ばしりと叩き落とす。そうされるとは思っていなかったのだろう。女の手からあっさりと地面に落ちたそれは、少しだけ角がへこんでいた。
「っひどい!」
「うるせぇ。何回言や分かんだよてめぇ。チョコなんざ吐き気するくれぇ嫌いなんだわ。見たくもねぇし手作りとかマジでキメェ」
「な、」
「つうか誰だよてめぇ。邪魔なんだよ、退け」
思いの外、声が大きかったのか、ちらちらと周りにいる人間がこちらへと視線を向ける。目の前の女はマスカラとアイラインでゴテゴテに装飾した目玉にいっぱいの涙を溜めて睨んでくるけれど、怖くねぇし、そもそも何で睨まれてんのかも分からねぇ。
立ちすくむそいつを避けて、可愛い恋人が待っててくれているであろう正門を目指す。
「結愛」
「っあ、き、きと」
「違ぇよな、結愛」
「っ、お、おう、が、くん」
ふわりと風になびいた栗色の髪が見えて、どくりと心臓が鳴る。
居た。俺の、俺の可愛い、恋人。
最後の距離を駆け寄って、若干うつむき気味の結愛の顔を覗き込むように身体を曲げれば、ぴやっと彼女の肩がはねた。
「おー、悪い待たせちまって」
くそ可愛ひん剥きてぇ。