新人ちゃんとリーダーさん

 今日は普通のご飯会じゃなくて相談会だから遅くなるかもしれないと早めのご飯をハリーさんのお家(ゲージ)に置いて、家を出た。
 待ち合わせは最寄り駅。家から徒歩で十分もかからないそこへ向かって足を動かすも、一歩一歩がとてつもなく重い。まぁそりゃそうか。だって、行きたくないもん。
 好きな人に会いたい気持ちはある。でも、好きな人の好きな人の話は聞きたくない。その人についての相談なんて尚更だ。でも、約束だから破れないし、破りたくはない。だって、会いたいもん。助けてハリーさん。

「……うぅ、」

 短く唸って、ため息をつく。
 どうしてこうなった。なんて、原因は明白だ。先週のご飯会で酔ったオーナーが「鬼頭もそろそろ本気で奪いに行けよぉ~」と脈絡のない事を叫びながらジョッキを、だぁんッ!とテーブルに叩きつけたのが全ての始まりと言っても過言ではないだろう。
 奪う?
 は!まさかこれは恋バナ!?
 立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花を具現化したような見目だけれど、すぐ怒鳴る、すぐ殴る、すぐ「ぶっ殺すぞ」「死ねくそ」「消えろカス」って言う三大マイナスパッシブスキルのせいで私より前にアルバイトで来ていた人達を次々と、しかも全員三日以内に辞めさせていたというあの鬼頭さんの恋バナなの!?やだ聞きたい!
 ってな具合で、まぁまぁ私も酔っていたから「こいつよぉ~二十歳(はたち)にして初めて女に惚れたっつうのに、その子にはどうしようもないクズでヒモなパラサイト彼氏がいるみてぇでよぉ~。しかもその子、その事に気付いてねぇくらいそのパラサイト彼氏にゾッコンなんだよ~毎日健気にご飯用意して、家を買ってあげたいからバイト頑張ってるって言っててよぉ~」ていうオーナーの言葉に「何ですかそれ!そんな男より鬼頭さんのが絶対いい男ですよ!鬼頭さんは確かに口は悪いし、怒鳴るし、声も大きいし、身体も大きいし、べちんべちん人の頭叩いたりしますけど、でも!言ってる事はすっごく!すっごく!真っ直ぐで正しい!本当は優しい人だって私知ってます!だから絶対!鬼頭さんのがいい男です!奪っちゃいましょうよ!鬼頭さんっ!」と白熱した。からの「んじゃ、相談のってくれよ」で「必ずやお役に立って見せます」の敬礼だ。穴があったら入りたい。

九頭見(くずみ)
「っ、あ、きき、鬼頭さ、」

 ああぁああ!と脳内で呻いていたら、いつの間にか駅に着いていた。
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