新人ちゃんとリーダーさん
ううん、と頭の中で唸り、視線を落とす。ゆらりとたゆたう蕎麦つゆに自分の顔が歪んで映っていた。
「…………四日前、に、なんですけど、」
「おお」
「……あの、祖父に、お見合いの話をされ、まして、」
「は?」
前方斜め上から降ってきた、一文字と疑問符のコンビ。それを吐き出してしまう気持ちはよく分かる。実際私も、祖父に対して言いそうになったから。
しかしもう、話し始めてしまった。この四日間、悶々としていたせいか、知らず知らずのうちに鬱憤が溜まっていたのだろう。「赤ん坊が見たいらしくて」「一回だけと頼み込まれて」祖父に言われた言葉を端的に説明する口が止まらない。そうしてようやく、明日の約束のことを話せたと思ったら、またしても前方斜め上から濁点つき母音一文字と疑問符のコンビが降ってきた。
「お……うが……くん……?」
その声に感情が乗っていないことに気が付いて思わず顔をあげれば、彼の顔にも感情が乗っていなかった。
まるで夜逃げでもしたかのような、すとんと抜け落ちた残骸と化した、そんな表情は見たことがなかったから、じわりと嫌な汗が浮かんだ。
「……会うんか、明日」
「え、あ、はい」
こくり、頷けば、「は」と彼の口端が歪む。
「ありえねぇ」
「え」
「ありえねぇだろ。見合いとか」
「え、でも、」
「断れよ」
どうやら、彼は怒っているようだ。相談せずに決めてしまったことが気にくわなかったのだろう。しかし約束の日は明日。今さら「やっぱり無理です」なんて言えないし、ドタキャンなんてもってのほかだ。
「……ごめんなさい……約束、しちゃったので、」
ふるり、首を横にふった。