新人ちゃんとリーダーさん

 ぱちり、視線の先にある切れ長の()が一度だけ瞬いた。

「……なぁ」
「は、はい」
「一応聞くが、断ったんだよな?」

 ぱちり、今度は私が瞬く番だった。

「あ……えと、あの、」
「……んだよ」
「その、いっ、一週間だけ一緒にい」
「あ"?」

 断っていない。それに、一週間ほど家にいる。
 その旨を伝えようとしたけれど、彼の口から吐き出された濁点つきの母音一文字と疑問符によって私の言葉は遮られてしまう。

「一週間、何だって?」
「あの、(うち)……に、」

 ぎっ、と細められた瞳。不愉快だと言わんばかりの、あからさまな表情。ぎちり、不穏な音がその場に響いた。

「……結愛」
「……は、い」
「人を馬鹿にすんのも、大概にしろよ」
「そ、んな、つもりは、」
「してんだろうがよ。んだよ、見合いって」

 ばくばく。今にも破裂しそうなほどに激しさを増した心臓が音を立てる。バイトを始めたばかりの頃は怒鳴られてばかりだった。けれどそれは声が大きくて言葉使いが悪いだけで、怒っているというよりこうした方がいいというアドバイスだった。だから、恐いと思ったことはなかったのだけれど、今は恐いと感じている。
 めちゃくちゃ怒ってると思ってはいたけれど、彼のそれは、私の想像を上回っていたようだ。静かに吐き出される言葉のひとつひとつがどうしようもなく、恐い。

「そっ、相談しなかったのは、申し訳ないと思ってます……それに、私だって気はあまり乗りませんでしたけど、」
「……」
「そんなに……嫌、ですか……?」

 少し震えた、上擦った声で、彼に問いを投げた。
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