新人ちゃんとリーダーさん
声は掛けられたものの、鬼頭さんの傍らには美女が三人ほど。この方達はどちら様ですか?と問うわけにもいかず、とりあえずへらりと笑えば「散れ、邪魔」とどこか懐かしさを感じさせる暴言が聞こえ、ふ、と視界が陰る。
「……え、と……すみません、待たせちゃいましたか?」
自身を囲う美女達を押し退け、大股で距離を詰めてきた鬼頭さんと、ばちり、視線がかち合う。
「別に。待ってねぇ」
っはぁあああ!格好いい!
どうしよう本当どうしたらいいの恋心を自覚してからどうにも鬼頭さんがまばゆい眩しい美しい直視出来ない無理恥ずかしい。
鬼頭さんに向けていた視線を伏せる。あからさまだったろうけれど、二人きり、という初めてかつ特殊な環境が私を私でなくさせる。
「っ、えと、」
「行くぞ」
「えっ、あっ、う、」
いつもの居酒屋さんですよね?
そう聞こうとして開いた口から出てきたのは、短い母音。「行くぞ」とまるでセットであるかのようにさりげなく、自然に、握られた右手。そこに這う他者の温もりを脳が理解した瞬間、一気に熱が顔面を襲った。
な、何故に!?
異議を唱えようとして右隣斜め上へと視線を向ける。しかし当の鬼頭さんは何もオカシイ事はしていない、これは当たり前の行為だとばかりにただ真っ直ぐ前を見据えて歩いていく。視線を進行方向へと戻し、思案する。それを数秒行ったところで、ひとつの結論にたどり着いた。
もしやこれが巷で噂の【エスコート】というやつなのだろうか。男性が女性をリードする。少女漫画によくあるやつだ。
なるほどそうか。きっとそれだ。という事は、これを拒むのはマナー違反。私は大人しく鬼頭さんに【エスコート】されていればいいのだろう。恥ずかしいけれど、好きな人に触れられるのは正直嬉しい。だけどこれは、ただのマナーだ。浮かれてはいけない。そうだ、浮かれるな。
「九頭見」
「えっ、あ、はい!」
「乗れ」
「へ」
ぺちぺちぺちっと左手で左頬を軽く叩き、己に叱咤を入れていれば目の前に黒いセダン。突然の事に呆けていると、助手席側のドアを開けて待っていてくれた鬼頭さんに「早くしろ」と怒られた。