新人ちゃんとリーダーさん
「結愛」
「っえ、あ、お、うがくん!?」
就活に本腰をいれるため辞めたバイト先のオーナーに電話で「どういうことだよおい」と怒鳴ったのが、約八分前。「新しく入った新人さん。もうひとりいるけど彼女達、結愛ちゃんとすげぇ仲良し。微笑ましいだろ」と返答されたのが、その約二十秒後。
もちろんその間にも足はバイト先だったところに向けて動かし続け、「従業員用出入り口使うからな」と吐き捨て通話を切り、有言実行、俺は休憩室へと乗り込んだ。
「どっ、どうして、」
休憩室に入る際にはノックをするのがここのルールだ。けれど今の俺にはそれを実行する余裕なんざなかった。
迎えに来た。
そう言えば、結愛は形容し難いほどに複雑な、しかしどうしうもなく可愛い表情をして、勢いよく椅子から立ち上がる。
彼女はちらりと壁にかけてある時計を見て、そこから隣に座っていた茶髪に視線を向け、互いのそれらがかち合ったところで小さく頷き合った。
「じゃ、じゃあ、帰りましょう!」
明らかに不自然。加えて、不審。
いや今のアイコンタクト何だよ。絶対ぇ何かあンだろお前ら。
「お疲れさまでした! ほら早く行きましょう桜雅くん」
問い詰めようと茶髪に視線を向ければ、それを阻止するかのように絡め取られた腕。ふよりとした柔い感触に理性をぶん殴られ、抗えない本能と戦っている間にぐいぐいと引っ張られる。
「いやおい、ゆ」
「あ、ああ! おお桜雅くん! あの! 私! 行きたいとこありまして!」
「ちょ、」
「ごめんなさい……でも! どうしても、あの、お願いします」
気付けば、俺も結愛も店の外。
ガチャンと背後で扉が閉まる音が聞こえたかと思えば、どこか上擦った結愛の声が聞こえて、またしても腕を引かれた。