偽婚約者の恋心~恋人のフリが本気で溺愛されています~
「財前蓮と申します。これでもう知り合いだよね。」
と微笑んでくれた。私も彼が名刺を出したので条件反射のように立ち上がり、自分の名刺を取り出し、
「沢渡風乃と申します。」
と言って形式的な名刺交換をした。
彼はしばらく私の渡した名刺を見ていたが、
「では、沢渡さん、見たところもう大丈夫そうなので僕はこれで。」
「あっ、ありがとうございました。」
私は深々と頭を下げお礼を言った。
彼は立ち去りかけたが、不意に振り向き、
「あっ、それと飲み過ぎには気を付けて。」
と、笑顔で言って颯爽と立ち去って行った。
えー???水の飲み過ぎなわけないよね??
二日酔いってバレてたの???
もしかして酒臭かった???
私ってサイテーサイアクだわ…。
一瞬でがっくりきた。紳士的で素敵な人だと思ったけれど、芽生えた小さな恋心は儚く散った。もう会うこともないと思い、貰った名刺を携帯カバーのポケットに差し込んだ。