偽婚約者の恋心~恋人のフリが本気で溺愛されています~
暴走
早く支店に行かないと、始業時間までに間に合わないっ!
私は気持ちを切り替え、ペットボトルのミネラルウォーターを握りしめたまま、急いでエレベーターへ向かう。
エレベーターを使い7階に着くと、店舗と店舗の間の細い廊下を通り、
STAFF ONLY と書かれた重い扉を開け社員専用通路を通り、支店の社員用裏口扉へ。四桁の暗証番号を入力し、社員IDカードをかざすとカチッとロックが解除され、扉を開ける。事務所スペースを通り休憩室へ。休憩室の奥に女子更衣室がある。更衣室にはノックしてから入る。カーテンを開けると2才年上の田中先輩がいてすでに制服に着替え終わっていた。
「おはようございます」
と挨拶すると、
「おはよう~、沢ちゃん。今日はいつもより遅いね。」
と返してくれた。沢ちゃんというのは田中先輩が、早く支店に馴染めるようにと付けてくれた私のニックネームだ。
「田中先輩、私、酒臭いですか?正直にお願いします!」
と思い切って聞いてみた。田中先輩は
「何~?二日酔い~?」
と、言いながらくんくんと私に顔を近づけたが、首を傾げながら、
「香水の匂いしかしないよ?」
と言ってくれた。私はホッとして
「よかったです。ありがとうございます。」
と言ってロッカーを開け、制服に着替え始めた。私の顔が緩んだことに気づいた田中先輩は、すかさず、
「何~?何かいい事でもあった?」
と聞いてきた。
いつもながら鋭い。