偽婚約者の恋心~恋人のフリが本気で溺愛されています~
前半はストーカーの話で暗くなりがちだったが、後半はお互いのことで話が弾み、楽しく食事をすることが出来た。
食事が終わり席を立つと、彼はいつの間にか会計を済ませていたようで、

「財前様、またのご利用をお待ち申し上げております。」

と言われていた。
そして、そのまま私達はエレベーターに向かった。エレベーターを待つ間に、私はご馳走になったお礼を言った。

「お話を聞いていただいた上に、ご馳走になってしまって。」

「気にしないで。僕から誘ったんだから。じゃあ、次は今後の打ち合わせも兼ねて飲みながら話そうか。もちろん飲めるよね?」

と財前さんは、私の顔を覗き込んだ。私はあの二日酔いの朝の失態を思い出し、赤面する顔を伏せながら、

「飲めます」

と答えるのが精一杯だった。

エレベーターに入ると、彼は先程と同じようにカードをかざしてから55階のボタンを押した。高級レストランからさらに上階の会員制の高級バーがある階だ。職業、年収審査もあり、年会費も高く、一般市民には縁のない場所で、長年支店に勤める先輩達ももちろん行った事がなく、常々、1回行ってみたいよね~と話していた場所だ。
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