偽婚約者の恋心~恋人のフリが本気で溺愛されています~
食材をキッチンに運ぶ。
気を紛らわせる為に、晩ご飯を作る。

私の得意料理は鍋焼きうどん。簡単なので、寒い日や体調が悪い時にもよく作る。藤原さんのせいで正直食欲はないが、これなら食べられるだろうと思った。殺風景なキッチンだったが、戸棚を開けると一通りの食器や料理道具、基本の調味料は揃っていた。

私は無心でテキパキと作った。後は煮込めば終わり。蓮さんが何時になるのかわからないので、とりあえず自分の分だけ火にかけた。

ぐつぐつとし始め、出汁のいい香りが漂う。

ガチャガチャ、バタン。

玄関の方で音がした。蓮さんが帰ってきた。

蓮さんはネクタイを指で緩めながら、

「いい匂い。俺の分もある?」

「お帰りなさい。すぐに用意します。」

なんとなく、新婚ならこんな感じなのだろうかと甘い感覚になる。
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