偽婚約者の恋心~恋人のフリが本気で溺愛されています~
あんなに重かったはずの身体が、点滴のおかげで大分軽くなっていた。既に身体はいつも通り動くようになっていたが、念の為、看護師に車椅子に乗せられて、今夜私が入院する病室に案内された。
高級病院だけあって、診察室も処置室も最新の設備で豪華だったが、案内された病室は特別室らしく、まるでホテルのスイートルームのようだった。
「何かありましたらナースコールで呼んで下さい」
そう言って看護師が出て行ってから、私はベッドから出て窓際へ。足取りも、すっかり普段通りに戻っていた。
病室の窓から外を見ると、ベリーヒルズビレッジの夜景が広がっていた。下を見るとテナントに入っている美しい日本庭園が見えた。優しい光でライトアップされた日本庭園は、幻想的で、まるでそこだけ別世界のようだった。
美しい庭園を眺めていると、先程の一連の事態が頭をよぎった。しかし、自分が襲われたことよりも、田中先輩に裏切られたショックの方が大きかった。出張中のはずの藤原さんが休憩スペースに来たこと、携帯の電源が落ちていたこと、ホテルの部屋の中に突き飛ばされたこと。田中先輩の行動がすべてが一連の出来事と繋がった。私は悔しいというより悲しかった。きっと何か事情があったに違いない。そう思うことにした。
コンコンコン
ドアがノックされた。