嘘吐きな王子様は苦くて甘い
結局、旭君との関係は微妙なまま。夏休みが終わって二学期が始まった。旭君は、私に「別れよう」って言わない。もちろん「好き」だって言ってくれるわけもなく。

私に付き合おうって言った経緯を知ってる私は、もうこれ以上どうしたらいいのか分からなくなっていて。

旭君を大好きな気持ちは変わらない。だけど好きでもない相手と幾ら言い出しにくいからって二ヶ月近くも付き合えてしまう彼の、本音が見えないっていうのも事実で。

始業式の日、ドアを開けると自分の家の玄関にもたれかかってる旭君と目が合う。待っててくれたのかも、そう思うと胸がドキドキしたけど、同時に「好きじゃないくせに」ってモヤモヤも襲ってきて、どんな顔したらいいのか分からない。

「おはよ…」

「はよ」

「…」

「なぁ」

旭君と一瞬目が合う。またドキドキとモヤモヤがぶつかって、私はフイッと視線を逸らした。

「何?」

「…別に」

「そっか」

…嘘吐き。ホントは言いたいことあるくせに。

チラッと見ると、旭君はもう私の方は見てなくて。眉間にシワを寄せたまま、睨むように前を見つめてる。

心の中で大きな溜息を吐きながら、私は肩にかけてるカバンの紐をギュッと強く握った。








「おはよー」

「おはよー」

「あっついねー」

「ねぇ、もう帰りたいよー」

「冬休み早く始まんないかなー」

「アハハ」

教室に入ると、皆楽しそうにガヤガヤしてる。この空気感が久しぶりで、何だかホッとしてしまった。

「おはよ、ひま」

「菫ちゃん、おはよ」

「ねぇ、なんか痩せた?」

夏休み中も菫ちゃんと風夏ちゃんには何度も会ってだけど、特に菫ちゃんは私の変化に敏感だ。

多分、私になにかあったことなんてとっくに気が付いていて、それでも聞かずに普通に接してくれてるんだと思う。

「そうかなぁ?体重あんまり変わってないよ」


笑いながら誤魔化す私に、菫ちゃんは「そっか」と返したきりそれ以上は何も言わなかった。

「おはよ!」

一ノ宮君が私と菫ちゃんに近付いてくる。

「おはよう」

「二人とも全然焼けてないね」

「一ノ宮は真っ黒だね」

「ほぼ週五か六で部活してたからなぁ」

「偉いなぁ、一ノ宮君」

「こんだけやっても全然上達しないんだよなぁ俺」

ニカッと歯を見せる一ノ宮君の笑顔は、爽やかそのもの。誰に対しても明るくて、裏表がなさそうで、表情も豊か。

こういう男の子が少女漫画のヒーローポジションだったりするんだろうなぁ。

「大倉さん、なんか痩せた?」

「え?そんなことないってば」

一ノ宮君にも、菫ちゃんと同じことを言われてしまった。

確かに旭君のことで悩んで少し体重は減ったけど、お腹まわりのお肉は全然落ちてないから不思議だ。
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