嘘吐きな王子様は苦くて甘い
今日は授業は午前中で終わり。だけど夏休み家庭科部はあんまり活動してなかったから、今日は集まろうかっていう話になって。

家庭科室でお弁当を食べて、それからクッキー作りをすることに決まっていた。

家庭科部は、三学年合わせても十人しかいない。優しい人ばかりで、先輩達も後輩ってより友達みたいな感覚で接してくれるから、とてもやりやすい。

「わ、いい匂い」

シンプルなバタークッキーとチョコチップだけど、少し手間のかかる作り方をしたからきっといつも家で作ってるのとは全然違う味になってると思う。

「持って帰りたい人は、この袋使っていいからねー」

顧問でもある家庭科の先生が、そう声を張り上げた。

一枚食べると、サクッという音と共にバターとアーモンドの香りが鼻にふわっと広がる。

ホットケーキミックスで作るやつと全然違う!凄く美味しい。

持って帰って、お母さんと一緒に食べよう。

そう思って先生から袋を一枚もらう。

「…」

「大倉さん?」

「すいません、袋もう一枚もらってもいいですか?」

「ええ、どうぞ」

「ありがとうございます」

今までも、家庭科部で作ったものを旭君に持っていったことは何度かある。

だけど旭君個人宛に持って行きずらかったから、量をたくさん持って帰れた時に「家族で食べてね」って名目の元でしか渡したことはなくて。

今日は、家族で食べてもらえるだけの量がない。

「い、一応。念の為、念の為」

今旭君と最高に気不味い空気だし「これ食べて?」なんて渡す勇気全くないけど。

でももしかしたら、どこかで偶然会っちゃうかもしれないしね。別に袋を分けてるだけで、二つともいえでたべることになるかもしれないし。

全然深い意味なんかないんだから、うん。

「大倉さん?どうしたの?」

「え?あ、いえ!なんでもないです!」

一人でアタアタしてる私を、先輩が不思議そうに見つめる。私は慌てて笑顔を作って手の平をブンブン横に振った。










「あ、大倉さん!」

門を出るところで、一ノ宮君に会った。

「一ノ宮君?」

「あれ?今日部活だったの?」

「うん。一ノ宮君も?」


「そ。でも今日は練習ってよりミーティングとか、軽いアップだけ」

「そうなんだ。でもお疲れ様」

「大倉さんもお疲れ様!」

「ありがとう。じゃあ、また」

「あ、待って!」

一ノ宮君は慌てて言うと、何やらカバンをゴソゴソとし始める。

「これあげる!」

そう言って差し出されたのは、この前もくれた私の好きなチョコレートのお菓子。

「今朝コンビニ寄った時たまたま目に入ったからさ!朝渡すの忘れてたから、今会えてラッキー」

ニカッと笑う一ノ宮君。

「え、でも…」

「ほんとたまたま買っただけだから!遠慮せず受け取ってよ!」

前はお礼って言ってたから受け取ったけど、今回は理由もないのに受け取っていいのかなぁ。

あ。

「じゃあ、これもし良かったら」

手に持っていた紙袋から、さっき作ったクッキーの袋を一つ取り出す。

「今日、部活で作ったの。クッキーが嫌いじゃないなら」

「え!大倉さんの手作り!?」

「いや、私っていうか家庭科部の皆で作ったから」

私の言葉なんて耳に入ってないみたいに、一ノ宮君は目をキラキラと輝かせる。

「これマジでもらっていいの!?」

「一ノ宮君さえよければ」

「いい!全然いいです!てか俺、得し過ぎ!大丈夫か!?」

「え?」

「あ、い、いや何でもない!嬉しいよ、ホントありがと大倉さん!」

「いえいえ、こちらこそありがとう」

名刺交換するみたいに、お互いのお菓子を交換し合う。それがおかしくて、二人で同時に噴き出してしまった。
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