嘘吐きな王子様は苦くて甘い
第六章「笑顔のその先」
こういうことって、何でこんなに広まるのが早いんだろう。

覚悟はしてたけど、誰も彼も私のこと言ってるんじゃないかって妄想に陥りそうになった。

「ひま」

「ひまり」

菫ちゃんと風夏ちゃんが、常に心配そうに私を気遣ってくれる。

三日経っても、私の目は腫れぼったいまま。今回は流石に、悲しい気持ちをごまかす気にもなれなかった。

「ねぇ、ひま。今日私の家に泊まりに来ない?もちろん風夏も」

お昼休憩、机を寄せ合ってお弁当を食べてる最中に菫ちゃんがそう口にした。

「明日土曜だし、親に聞いてみてオッケーならおいでよ」

「行きたい行きたい!明日顧問いなくて丁度陸部休みなんだよね!」

この提案が明らかに私の為だと分かるから、申し訳なくなってしまう。

「ひま、もし遠慮してるならそんなの要らないからね」

菫ちゃんは、優しい声色で私に顔を寄せた。

「辛い時は頼ってよ、ひま」

「そうだよひまり、思いっきり辛いって顔見せていいんだからね!」

「…ありがとう」

二人が居てくれるから、私はこうやって学校に来られる。

旭君の姿を見かけても、涙を堪えることができるんだ。

「お母さんに聞いてからになるけど、私も泊りに行きたいな」

表情を緩めながら言うと、二人とも笑顔を見せてくれて。

「やった、私二人とお泊まりするの初めて!めっちゃ嬉しいんだけど!」

「ベッドはじゃんけんだからね、負けても勝っても恨みっこなし」

「夏休みはできなかったし、楽しみだねぇ」

それからは三人でワイワイ言いながら、お泊まり会の計画を練ったのだった。










「おやすみなさい」

菫ちゃんのご両親に挨拶をして、私達は菫ちゃんの部屋で布団の準備をして。

まだベッドには行かないで、三人で二組敷かれた布団の上に丸くなって座った。

「聞いてくれる?」

おずおずと切り出した私に、二人は大きく頷いてくれる。旭君と別れたことは伝えてたけど、詳しいことはまだ話していなかったから。

「あのね…」

それから私は、旭君と友達の会話を立ち聞きしたこと、旭君が別れを切り出しやすいように色々したこと、旭君から言われたことを包み隠さずに話した。

「…」

「バカだよね、私…」

旭君の話をするとどうしても泣いてしまう。そんな私を、風夏ちゃんは勢いよく抱き締めてくれる。

「ひまりはバカなんかじゃないよ!バカは石原君だよ!」

風夏ちゃんも、目に涙がいっぱい溜まってる。

「辛かったね、ひまり…」

「風夏ちゃん…」

「ひま」

菫ちゃんは、私の手の上にそっと自分の手を重ねた。

「アンタ、偉いよ」

「菫ちゃん…」

「ひまりぃ」

「…ふぅ…ぐすっ…」

「泣け泣け、どんどん泣いちゃえ!」

「そうだよひま、我慢なんかしなくていいからね」

「あ、ありがとう…っ」

子供みたいに泣きじゃくる私の背中を、二人はずっと優しくさすり続けてくれた。
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