嘘吐きな王子様は苦くて甘い
「俺ら先帰ってんぞー」

「いや、俺も行くーっ」

「いい!お前来んなー!」

「は、はぁ!?」

「大倉さーん、ミヤよろしくねー!」

ヒラヒラと手を振られて、どう返せばいいのか返事に戸惑う。一ノ宮君も同じみたいで、苦笑いしながら私を見た。

「ご、ごめんね大倉さん!あいつら訳分かんねぇ」

「う、ううん!」

微妙な空気が流れて、お互いしばらく何を話していいのか分からなくて。

「大倉さん、あのさ…」

一ノ宮君が何か言いかけた時、

「ミヤッ!!」

さっきのサッカー部の集団から、女の子が一人一ノ宮君の名前を呼びながらこっちへ駆け寄ってきた。

「ミヤ、皆で帰ろ?コンビニ寄る約束してたじゃん」

「いや、俺…」

「ミヤ!ホラ行こ!」

活発そうなポニーテールの女の子。一ノ宮君の腕をグイグイ引っ張りながら、明らかに私を睨んでる。

「一ノ宮君、じゃあ私これで…」

「え、でも大倉さん一人だよね?俺送って…」

「あ、だ、大丈夫!まだそんなに暗くないし!また明日っ」

「ごめん…またね大倉さん!」

その子に引っ張られるようにしながら、一ノ宮は私に手を振る。私も小さく手を振ったけど、キッと強い視線を向けられてすぐに止めて歩き始めた。

一ノ宮君が普通にしてくれるのはありがたいけど、送ってもらうのは流石に気まずいし旭君もいい気はしないと思うから、あの子が一ノ宮君を呼びにきてくれたのは正直ホッとした。

サッカー部の人達と一緒にいたし、マネージャーさんなのかな?一ノ宮君のこと好き、って感じだったよね?

何となーく嫌な予感がしたけど、小さく頭を振ってそれ以上考えないようにしたのだった。











ーー

「大倉さん、呼んでるよ」

そんな出来事から何日か経ったある日の昼休み、ドアの近くにいた女の子が私の名前を呼んだ。

「ありがとう」

お礼を言って、席から立ち上がる。

「ちょっといいかな?」

「…」

この子は…

一ノ宮君の腕を引っ張ってた、ポニーテールの女の子だ。いい話じゃないだろうなっていうのは、雰囲気から一目瞭然だった。

だけど無視もできないし、風夏ちゃんや菫ちゃんに言ってついてきてもらうのもどうかと思うし、その子は一人だから取り敢えず黙ってついていく。

「あ、あの…」

一人じゃなかった…

今は殆ど使われてない焼却炉に、その子の他に女の子が三人いて。

「何の話か、分かるよね?」

開口一番、鋭い声色でそう言われた。
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