嘘吐きな王子様は苦くて甘い
一ノ宮君に関することだっていうのは分かる。

それから、この子は私を敵視してるってことも。

「あの…」

「何?」

「名前、なんて言うの?」

「はぁ?」

私の言葉に、ポニーテールのその子は綺麗な眉を吊り上げる。

「ご、ごめん。他のクラスの子の名前まだ覚えてなくて」

シューズの色を見れば一年生だと分かった。場違いな質問してるのは分かったけど、名前が分からないまま話してるのも失礼だと思ったから。

「前橋だけど」

「前橋さん、ありがとう」

前橋さんは、スラッとした綺麗な子だ。ポニーテールがよく似合ってて、いかにもスポーツが得意そうな活発な印象。

きっと明るい人なんだろうけど、今は不機嫌そうに私を見てる。

他の三人の子達も、私とは違うクラスだから名前は分からない。でも全員の名前を聞く勇気は流石になかった。

「大倉さんって、石原君と付き合ってるんだよね?」

「う、うん」

「じゃあ、何でミヤにベタベタするの?」

「別にベタベタなんてしてないよ、同じクラスってだけだし」

「嘘。貴女と同じクラスの子が言ってたよ。大倉さん、よくミヤに話しかけてるって」

…それは、その子がそう言ったのか。それとも、前橋さんがそう解釈したのか。

どっちにしろ、事実とは全然違う。







「私、一ノ宮君にベタベタしたり積極的に話しかけたりしてないよ。誤解だよ」

「誤解?でも見た子がいるんだよ。その子が嘘吐いてるって言うの?」

前橋さんは一層険しい顔をして、私に一歩詰め寄る。

「そ、それは知らないけど…兎に角私はそんなことしてない」

前橋さん以外の子達はまだ喋ってないけど、皆後ろで私のことを威圧的に見てて。

ホントは凄く怖いけど、だからってしてないことを認めるわけにはいかない。

「じゃあ、ミヤから話しかけられてる…とか?」

「え?」

「自分からは話しかけないけど、向こうから絡んでくるんだよって言いたい?」

「そんな、そんなこと言ってないよ!一ノ宮君と話すこともあるけどそれは同じクラスだからだし、一ノ宮君は誰にでも優しいから」

「そうだよ、ミヤは皆に優しい。でも大倉さん、前にミヤと二人で帰ったことあるでしょ?」

「いや、それはたまたま…」

「石原君と付き合ってるのに、ミヤとも一緒に帰ったってことだよね?」

「その時は…別れてたから」

「はぁ?」

…しまった。余計なこと言っちゃったかもしれない。

そう思った時にはもう遅くて、後ろの子達もお互いの顔を見合わせながら何やらこそこそと話してる。

案の定、前橋さんの顔は更に厳しくなってしまった。
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