嘘吐きな王子様は苦くて甘い
第十章「正解?不正解?」
オーブンを開けた瞬間キッチンに広がる、甘い香り。
きちんと並んだカップから覗くふわふわの生地。チョコチップ、ココア、プレーンの三種類だ。
アーモンドプードルのおかげか、香ばしい香りが食欲を刺激する。
「よし、成功してる」
明日は、いよいよ学園祭本番。販売する小物類の準備は無事に終わり、後はお菓子だけ。カップケーキと、クッキー。人数があんまり居ないから大量には出来ないけど、明日早く家庭科室に集合して皆で作ることになってる。
「わ、いい匂い」
お母さんが、私のいるキッチンにやってきた。
「でしょ?明日これと同じの出すから、買いに来てね」
「もちろん。だけど何で今作ってるの?練習?」
「ま、まぁそんなところかな」
「ふふっ、張り切ってるんだねひまり」
お母さんは嬉しそうに笑って私を見つめる。
「ひまりが楽しそうでお母さんも嬉しい。明日、お父さんと見に行くからね」
「うん、待ってるね!」
「それにしても、随分たくさん作ったね」
「あ、うん!だから旭君のお家に持っていってくるね!」
「ふーん?」
お母さんがニヤニヤしながら私を見る。ハッキリ口にしなくても、とっくの昔から私が旭君を大好きだってことはバレてるんだ。
「お父さんのも残しとかないと泣いちゃうよ?」
「分かってる!ちょっと行ってくるね!」
手早くラッピングして紙袋に入れると、私はバタバタと玄関へ急いだ。
「これ、よかったら食べて」
「サンキュ」
見た目とは裏腹に甘いものが好きな旭君は、分かりにくいけど喜んでくれたみたいだ。
「明日同じもの買えるしなーとは思ったんだけど、皆で作るやつだし旭君にはこっち先に食べてもらいたいなって思って。皆と同じヤツじゃなくて、と、特別に気持ちがこもったヤツ…」
「…」
「アハハ、私何言ってんだろ」
付き合って、もうすぐ二ヶ月。なのに未だにこういう会話は恥ずかしい。
十一月の夕暮れは肌寒くて、立ってるだけでも体温が奪われてくのに。
私の体だけ、季節感が狂っちゃったみたいに熱い。
「ひまり」
「は、はい」
「すげー嬉しい」
「うん」
「…」
「ち、ちょっと旭君まで照れるのやめてよ!」
「うっせ」
幼馴染み期間が長すぎたのか単に私達の性格なのか、旭君も私と同じようにまだまだ恥ずかしさは健在みたい。
でも旭君は昔から天邪鬼で全然ホントの気持ちを見せてくれなかったから、それを考えたらこうやって口にしてくれるだけで私にはとっても嬉しいことなのです。
「明日、ごめんね抜けられなくて」
三年生の先輩は自分のクラスの模擬店もあるから、ずっと家庭科部の方にはいられない。
当日特に何もない一年生は、ほとんどの時間こっちに時間を取られることになっちゃってあんまり自由に回る時間がないんだ。
「謝んな、頑張れよ」
「うん、ありがとう!」
旭君は私が今渡した紙袋からラッピングされたカップケーキを一つ取り出す。そしてそれをその場で開けてパクッと一口食べた。
「こんだけ美味けりゃ心配ねーな」
「旭君…」
私が緊張してるって、気付いてくれたんだ。だから目の前で食べて、元気付けようとしてくれてる。
「フフッ」
「んだよ」
「ううん!明日頑張るね!」
「おー頑張れ」
旭君はいつだって、不器用だけど私の気持ちを軽くしてくれる。
私のたった一人の、王子様だ。
きちんと並んだカップから覗くふわふわの生地。チョコチップ、ココア、プレーンの三種類だ。
アーモンドプードルのおかげか、香ばしい香りが食欲を刺激する。
「よし、成功してる」
明日は、いよいよ学園祭本番。販売する小物類の準備は無事に終わり、後はお菓子だけ。カップケーキと、クッキー。人数があんまり居ないから大量には出来ないけど、明日早く家庭科室に集合して皆で作ることになってる。
「わ、いい匂い」
お母さんが、私のいるキッチンにやってきた。
「でしょ?明日これと同じの出すから、買いに来てね」
「もちろん。だけど何で今作ってるの?練習?」
「ま、まぁそんなところかな」
「ふふっ、張り切ってるんだねひまり」
お母さんは嬉しそうに笑って私を見つめる。
「ひまりが楽しそうでお母さんも嬉しい。明日、お父さんと見に行くからね」
「うん、待ってるね!」
「それにしても、随分たくさん作ったね」
「あ、うん!だから旭君のお家に持っていってくるね!」
「ふーん?」
お母さんがニヤニヤしながら私を見る。ハッキリ口にしなくても、とっくの昔から私が旭君を大好きだってことはバレてるんだ。
「お父さんのも残しとかないと泣いちゃうよ?」
「分かってる!ちょっと行ってくるね!」
手早くラッピングして紙袋に入れると、私はバタバタと玄関へ急いだ。
「これ、よかったら食べて」
「サンキュ」
見た目とは裏腹に甘いものが好きな旭君は、分かりにくいけど喜んでくれたみたいだ。
「明日同じもの買えるしなーとは思ったんだけど、皆で作るやつだし旭君にはこっち先に食べてもらいたいなって思って。皆と同じヤツじゃなくて、と、特別に気持ちがこもったヤツ…」
「…」
「アハハ、私何言ってんだろ」
付き合って、もうすぐ二ヶ月。なのに未だにこういう会話は恥ずかしい。
十一月の夕暮れは肌寒くて、立ってるだけでも体温が奪われてくのに。
私の体だけ、季節感が狂っちゃったみたいに熱い。
「ひまり」
「は、はい」
「すげー嬉しい」
「うん」
「…」
「ち、ちょっと旭君まで照れるのやめてよ!」
「うっせ」
幼馴染み期間が長すぎたのか単に私達の性格なのか、旭君も私と同じようにまだまだ恥ずかしさは健在みたい。
でも旭君は昔から天邪鬼で全然ホントの気持ちを見せてくれなかったから、それを考えたらこうやって口にしてくれるだけで私にはとっても嬉しいことなのです。
「明日、ごめんね抜けられなくて」
三年生の先輩は自分のクラスの模擬店もあるから、ずっと家庭科部の方にはいられない。
当日特に何もない一年生は、ほとんどの時間こっちに時間を取られることになっちゃってあんまり自由に回る時間がないんだ。
「謝んな、頑張れよ」
「うん、ありがとう!」
旭君は私が今渡した紙袋からラッピングされたカップケーキを一つ取り出す。そしてそれをその場で開けてパクッと一口食べた。
「こんだけ美味けりゃ心配ねーな」
「旭君…」
私が緊張してるって、気付いてくれたんだ。だから目の前で食べて、元気付けようとしてくれてる。
「フフッ」
「んだよ」
「ううん!明日頑張るね!」
「おー頑張れ」
旭君はいつだって、不器用だけど私の気持ちを軽くしてくれる。
私のたった一人の、王子様だ。