嘘吐きな王子様は苦くて甘い
たくさんの人混みをかき分けながら、さっきの二人を探す。キョロキョロと視線を動かしながら見つけようと必死になっていると、中庭の方に旭君の後ろ姿を見つけた。

あの子達より先に旭君を見つけてしまった…なんて思ってると、その横に女子が二人。きっと、あの子達だ。旭君と、男子が二人と、女子。中庭の噴水辺りに固まって何やら楽しそうにしてるように見えるけどここからじゃ旭君の表情までは見えない。

ー一緒に回ろって言ったら、いいって言われちゃった!

私の前で嬉しそうにそう言っていたさっきの子の顔が浮かぶ。

一瞬、見つからなかったことにしてこのまま戻ろうかと思ったけど、私は紙袋をギュッと握り締めて一歩踏み出した。

「あ、あの!」

声をかけると、旭君はもちろんそこにいた全員が私を見る。皆目立ちそうな、私とは違うグループの人達。気後れしそうになるのをグッと堪えて、私は真っ直ぐ女の子達を見た。

「これ」

「え?あ、あぁ」

「ごめんなさい」

「…ありがとう」

一瞬戸惑いながら私からそれを受け取る。

「じゃあ」

「ひまり」

「…ばいばい」

私を呼び止める旭君の方を見ないまま、足早にそこから立ち去った。

「大倉さんお帰り!」

「すいません、抜けちゃって」

「無事渡せた?」

「はい」

「そっか、よかったね」

「ありがとうございます」

それから私は、さっきの光景を思い出さなくて済むように必死に販売作業だけに集中し続けたのだった。











「ひまり」

お菓子がお昼過ぎには無事完売して、片付けを終わらせた後は自由に回ってもいいことになって。

菫ちゃんと風夏ちゃんを探そうと家庭科部のブースから出たところで、後ろからグイッと腕を引かれた。

「キャッ」

「ひまり」

「あ、旭君…っ」

「こっち」

旭君は私の腕を掴んだまま、お店も何もない人気の少ない校舎の裏に歩いていく。

花壇の前で立ち止まると、旭君は私の腕を離した。

「ひまり」

私の名前を呼ぶ旭君の表情は浮かない。

「旭君、もしかして終わるの待ってたの?」

タイミングが良過ぎた彼にそう問いかけても何も言わない。否定もしないから、きっと旭君は家庭科部のブースの近くにいたんだろう。

「あのさ」

「旭君?言っとくけど私、気にしてないからね?」

旭君を遮って、私は口にする。

「…」

「確かに、あの子達は怖かったし旭君があの子達と回るのかなって思ったら凄くモヤモヤしたけど…でも私は、旭君のこと信じてるから。だから大丈夫」

「っ」

私の反応が意外だったのか、旭君は一瞬目を見開いてからクシャッと表情を歪めて。

それから私の方に手を伸ばしたと思ったら、そっと私の頬に触れた。

突然のことに頭がついていかない。
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