嘘吐きな王子様は苦くて甘い
テスト前で今週から部活はお休み。旭君と一緒に、いつもの帰り道を並んで歩く。最近では旭君が斜め前じゃなく横にいることが当たり前になってて、たまにそれを意識しちゃって勝手に赤くなることもあるから困る。

「ひまり、明日暇?」

「うん、何もないよ」

「勉強、ウチでする?」

「いいの?」

「世界史やれば」

私が今回世界史がダメそうって言ったの、覚えててくれたんだ。

そう思ったら顔が勝手ににやけてしまう。

「うんっ!」

「…あのさ」

「うん?」

「…なんでもね」

「旭君?何?」

「お前、最近太った?」

「な、え!?」

「嘘」

「も、もう!旭君のバカッ!」

「ハハ」

最近、旭君がなんとなく何かを言いたげにしてるってことには気付いてる。

でもこういう時、旭君に詰め寄っても大体教えてくれない。

気にならないって言えば嘘になるけど、旭君が今は言わないって思ってるんだから私も追求はしないでおこう。








ーー

「お邪魔します」

「いらっしゃい、ひまりちゃん」

「こ、こんにちは!」

この前、旭君とお互いの親に付き合ってることを話そうって決めて、私はお母さんに報告した。

反応は「やっと!ひまりよかったねぇ!」って感じで、私の気持ちが成就したことを素直に喜んでくれて。

旭君のお母さんも「良かったね」って言ってくれてたって、旭君言ってたし。

だからって、緊張しないわけじゃない。今まではお隣さんって立場だから緊張なんてしなかったけど、ホントの彼女としてお邪魔するとなると話は別。つい、肩に力が入ってしまう。

「フフッ、ひまりちゃん今まで通りでいいからね?」

旭君のお母さんは私がガチガチなのに気が付いて、柔らかく笑ってくれた。

「先上行ってろ。適当に何か持ってく」

「私も手伝う!」

「いーから」

「うん。ありがとう」

お言葉に甘えて、素直に旭君の部屋で待たせてもらうことにした。ダメだ、なんか変に力入っちゃう。やっぱり今まで通りにはいかないなぁ。

「ここ覚えときゃいい」

「ふむふむ」

「この辺は単語だけ覚えるより、年表何回も見た方がいい」

「はい、先生!」

「誰が先生」

「フフッ」

旭君は、意外と勉強家だ。昔から効率の良い勉強の仕方が上手で、私が「ダメだぁっ」って叫べば直前に覚えられそうな場所をピンポイントでさり気なく教えてくれたっけ。

長い時間ダラダラやっちゃう効率の悪い私にとって、旭君は尊敬すべき先生なのです。

「旭君ごめん、消しゴム借りるね」

何気なく手を伸ばすと、旭君の手とぶつかる。

瞬間旭君は時間が止まったように動かなくなって、それから目にも止まらぬ早技で自分の手を引っ込めた。

その一連の流れに、私はポカンと口を開ける。
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