嘘吐きな王子様は苦くて甘い
「旭君」

「ん」

「こっち来て?」

ちょいちょいと手招きすれば、旭君は硬直する。

「旭君ー?」

「…」

「じゃあ私が行くね」

よいしょっと立ち上がる振りをすれば、旭君が慌ててベッドの側までやってきた。

「フフッ、ありがと」

旭君は照れたようにそっぽを向いてて、それが可愛くて仕方ない。

「ねぇ、旭君。今何考えてる?」

「何ってそりゃ…」

「自分のせいで私に怪我させたって思ってる?」

「…思ってる」

「違うよって言っても旭君認めないだろうから、もう何も言わないよ」

「…」

「ケンカしてた旭君も、後先考えずに突っ込んでいった私も、どっちも悪い!これでいいことにしよう?」

ホントは、私は私の方が悪いって思ってる。でも旭君もきっと、自分の方が悪いって思ってるから。

謝りたいけど、グッと気持ちを堪えて旭君に手を伸ばす。

「私、大丈夫だからね?」

色んな意味を込めたその言葉。旭君は切な気に私を見つめてギュッと手を握り返してくれた。

「アイツら、俺が気に入らないからひまりになんかするみたいなこと言っててさ。それが許せなくて、言い合いになった」

「…」

「それより前から、何回か言い合いになったりはしてた。俺が、アイツらに変な遊びやめろって言ってたから」

「旭君が?」

「友達でもない俺が口出しても意味ねーだろうなって思ったけど、最初にひまり巻き込んだことがどうしても引っかかって。お前は許して受け入れてくれたけど、俺だけ幸せでいいのかってずっと考えてた」

「…うん」

「お前と違って、俺はなんも変われてない。全部お前のおかげで、俺は卑怯なままなのか嫌で」

「…」

「だからちゃんとしたかった。自己満足って分かってても、幼馴染みじゃなくてちゃんと彼氏として隣に立ちたかった」

「…」

「なのにこんなんなって、マジで悪かったと思ってる」

「旭君…」

「ごめん、ひまり」

旭君が私の手を、ギュッとおでこに当てる。最近旭君のこんな顔しか見てなくて、それが凄く悲しかった。










「旭君」

「お前が謝られたくないの分かってるけど、どうしても一言言いたかった」

「うん、ありがとう」

旭君は私の手を離して、こちらをジッと見つめる。

「また私のこと、守ってくれたんだね」

「ひまり」

「旭君はずっとそうだ。昔から私のことからかう男の子と、内緒で喧嘩してたでしょ。知ってたんだよ?旭君隠したかったみたいだから黙ってだけど」

「…忘れた」

「私が何で強くなれたか分かる?全部旭君のおかげだよ」

泣きたくなる気持ちを堪えて、一生懸命笑顔を作った。

「最初は好きの気持ちじゃなかったかもしれない。でも旭君は私を守る為に、告白してくれたでしょ?あの瞬間から、全部変わったの。私達はただのお隣さんから一歩踏み出して、彼氏と彼女になれた。ずっと壊せなかった距離を壊してくれたのは、旭君なんだよ」
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