嘘吐きな王子様は苦くて甘い
笑顔を作りたいのに、どうしても声が震える。旭君は私と目線を合わせる為に、ベッドの側で膝立ちになった。

「旭君の素直じゃないところも、恥ずかしがり屋なところも、私を守ってくれようとするところも、全部全部大好きだよ」

「ひまり」

「旭君、いつもありがとう」

そう口にした瞬間、旭君が私を抱き締めた。その手は壊れ物に触れるみたいに、優しくて。

凄く嬉しいのに、目尻から一筋涙が零れた。

「ひまり」

「うん」

「ひまり」

「旭君」

「大好き」

「私も」

「こうしたかった、ずっと」

旭君の声色が優しくて、でも震えてるようにも聞こえて。私も彼をギュッと抱き締め返す。

「バカ、無理すんな」

「やだ、私もこうしたいの」

「意地っ張り」

「どっちが」

二人で顔を見合わせて、笑い合う。ずっと一緒に居たのに、また今日旭君の初めての部分に触れた気がする。

「最近旭君がすぐ逃げちゃうから、傷付いてたんだからね?」

「それは、アイツらとのことちゃんとするまではって…」

「そんなの、私には意味分かんないもん」

「悪かったって」

「じゃあ、これからいっぱい触ってくれる?」

「え」

「あ…」

勢いでポロッと出た言葉は、回収したくてももう遅い。真っ赤になってるだろう顔を隠しながら、笑って誤魔化す。








「じ、冗談冗談!アハハ」

「…」

「旭君?」

「…止めろ、バカ」

旭君は怒ったように眉間にシワを寄せてるけど、この顔は間違いなく恥ずかしい時にする顔だ。

私が恥ずかしがった時はもれなく旭君もそうだから、余計に恥ずかしさが増しちゃうんだよなぁ。

「…いいなら」

そっぽ向いたまま、旭君がボソボソと呟く。

「ひまりがいいなら、そうする」

「っ」

「やなら、しない」

「い、嫌ってわけじゃないけど」

「じゃあいい?」

「う、うん…」

ギュッと目を瞑ると、旭君が動く気配がして。思わず体をガチッと固まらせると、チュッという軽い音と共に旭君が私の右の頬っぺたにキスをした。

金魚みたいに口をパクパクすることしかできない私に、旭君は照れた表情のまま嬉しそうに口元をゆるめて。

そんな彼の表情に、私の体温は更に上昇したのでした。
< 80 / 89 >

この作品をシェア

pagetop