黒翼の淡恋
そのあとすぐにフォルトが部屋に入ってきた。


「ふんふんふ~ん」

「やけに機嫌がいいですね。フォルト」

「フォルトさんと呼びなさい。今更だけどなんで呼び捨て!?」

「呼びやすいんです。駄目・・ですねその目は」

「ええ。馴れ馴れしいですね。ちゃんと『さん』をつけてください」



機嫌は簡単に不機嫌に変わった。


「さてと、今日はこれでも読んでいてください」


フォルトはティファに大陸の地図を与えた。

少しでも自分を思い出させようと。


「こんなものが役に立つかはわかりませんが・・記憶が戻れば、自由にもなれるでしょうし」


「あ、はい」


早く出ていって欲しいという感じが伝わった。



_そりゃそうだよね。私はこの城にいてもやっかいなだけだし。


すっかり卑屈人間になり果てたティファだ。


「ねえフォルト、さん。シリウス皇子はララのお部屋で寝てるんですか?」


「はい?何故です?」


「だって、私がこの部屋を占領してるし」


「いやいや、健康男子たるもの、行くあてなんて沢山あるでしょう」


「そうなの?」


「ましてや国の皇子ですよ。恋人の一人や二人、最近はもっといるのかな?教えてくださらないから」


「え¨・・そんなに・・?」



まだ十代のティファには刺激が強すぎた。

とんでもない妄想が脳裏に繰り広げられた。


_そっか、恋人か・・。



「そ、そっか。そうですよね。シリウス皇子、ああ見えてイケメンの分類だし」


「そうですそうです!ああ見えて!ってこれ聞かれたら即刻首はねですよ、あなたも私も。
とにかく若いうちに早く妃を娶ってもらわねばね。10人くらいは欲しいかな~」


「10・・あ、あはは・・は」



_駄目だ。苦しい。

話についていけない。10人も必要なの!?皇子の身分て。

でも、話を濁されたのはそういう事だったんだ。

嘘までついて。


「そ・・か」


本当の事をいってもらえなかった事にショックを受けた。

まだ頭に撫でてもらった感触が残っているというのに。

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