黒翼の淡恋
ズキン


!!!


頭が一度痛んだかと思うと、脳裏に何かが浮かんでくる。黒い人影が二つ。ゆらゆらと揺れている。


『仇を討って来い。母の仇を・・』



_誰?誰の声?知っている。懐かしい声。母の仇って一体何なの?



『この薬を飲めば今まで以上に体が動かせるらしい。一緒に行けなくて悪いな。後で迎えに行くから』


ズキン

ズキン

ズキン



『お前はボクのモノのくせに、ボクの気持ちを何故理解しない!!』


脳の奥底から蘇るもう一人の声。

とてつもなく不快を生んだ。大嫌いな声だ。

その声には吐き気さえも生まれる。


『知っているぞお前の本心を!!それをボクは一生許さない!!!』


ゴボ・・・・ゴボゴボ・・・

ティファの口から酸素が泡となって水面へ向かっていった。


_誰?思い出せない・・苦しい・・苦しいよ・・息が出来ない!!!




ザバッ!!!

海から引き揚げられた。


「ティファ!!!しっかりしろ!!」

「ごほごほっ・・はぁ、はぁ・・ごほごほ」


海に飛び込んで助けてくれたのは、近くにいたセシルだった。

セシルはティファを抱え、急ぎ早海から上がった。


「セシル様!ああっ!早く火をくべろ!!」

「セシル様!?どうして!?」

「そのような者放っておいてもよろしいのに!」


心配でいっぱいなセシルの部下達だ。

しかしセシルは部下をよそにすぐにシリウスの方へ向かった。

全身濡れているティファを見せつける。


「あなたのティファですよ?兄上」


「・・・」


「ちゃんとご自分で管理してください」


「悪かった。感謝する」


シリウスの淡々としたその様子にセシルは初めて怒りを覚えた。


「わざとですか!?」

「いいや、海に落ちたら助けに行こうと思っていたが・・お前の方が一足早かっただけだ」


突如始まった兄弟喧嘩に、周りの者たちはたじたじだ。


「まさかお前が助けに入るとはな。予想もしていなかった」

「よく言いますね!動こうとしていなかった様に見受けられましたが・・あのまま助けなくて良かったのですか!?」


ズキン


ティファの胸に言葉が刺さる。


「いや、泳げると思ったから一足遅れた。すまなかった」
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