黒翼の淡恋
「とにかく、服を着替えろ。用意させてある」


「・・はい」


シリウスに促され、セシルは怒りのままティファの手を引き、後ろのテントに向かう。

ティファは後ろ髪を引かれる思いでシリウスの背中を見つめながら歩いた。

本心を知りたかった。


もう一つのテントには布で半分が仕切ってあり、奥に侍女が着替えを用意して待っていた。


「こちらへどうぞ」


「・・はい」


50代くらいの熟練侍女の風格があるその人は、穏やかな優しい笑顔で着替えを手伝ってくれた。


「あの、自分で出来ます」


「いいえ、髪も濡れていますし・・塩水ではガサガサになります。こちらのお湯をお使いください。髪も洗いましょうね」


大きな桶に湯が張ってあった。


「すごい・・準備万端」


「ええ、シリウス様がここに到着するやいなや準備せよと。もしかしてこの事態を読んでいたのかもしれませんね」


「え・・・」


_私が海に落ちる事を?


ドキン


_もしかしてワザと落とす予定だった?


不安がよぎる。

だがそれを必死で否定した。そんな結末認めたくない。


_そんなはずない。シリウス皇子は本当は優しい人なんだから。そんな事するはずない・・。

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