黒翼の淡恋
それから一時間後、フォルトがティファをある部屋に連れ出した。


「ここ・・」


そこは整理整頓されたララの部屋だった。


「ようやくシリウス様から使用許可を頂いたのです。今日からここで過ごしなさい」


小さな部屋にベッドと木のテーブルセット。古びた小さなドレッサーが置いてある。

侍女のお古だろう。


「いつまでシリウス様のお部屋に居られても困りますしね」


「・・そうですね」


ティファは終始浮かない顔で俯いていた。

病みモードはMAXに近かった。

フォルトは咳払いをした。


「ごほん。先刻は言いすぎました。すみません」


「・・え?」


誠実に謝ってきたのだ。


「あなたが酷く落ち込んでいたとシリウス様に咎められました。申し訳ありませんでした」


「あ・・・いえ」


愛想笑いをすると、フォルトはそれにため息を返した。


「でも、覚えていて欲しいのです。私の最優先はシリウス様。シリウス様の今後です。あの方は心の広い方です。ですから、近くにいる我々従者が世間からあの方をお守りしなければならないという事を」


「はい。心得ました」


それはその通りだとすぐにティファは頷いた。

フォルトはシリウスを思っているからこそ私を近くに置きたくはない事も。


「ですが・・あの方があなたを傍に置く以上は、仕方がありません。何か理由がおありになっている様ですので」


「理由・・?」


「私にもまだ教えてはくれませんが・・私はあの方を信じています」


_そっか、何か理由があるんだ。暇つぶしとは言っていたけどやっぱり理由が。


ティファもフォルトの言葉を信じる事にした。


「私も・・シリウス皇子に迷惑はかけたくありません。我がままを言ってごめんなさい」


「わかっていただけたのなら良いのです。それにあなたを見ていて思いました。あなたは今のところシリウス様に害をなす人間ではなさそうです」


ふと、フォルトからの笑顔を向けられティファは驚く。

新鮮だった。

それに、安心した。

別に私を毛嫌いしているわけじゃないと、その笑顔が語ってくれた気がしたからだ。

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