夢の中だけでも、その温度に触れたい。
私の指先から取り上げたばかりの煙草。
人一人抱えていながらも、器用に始末を済ませてくれたらしい。
ジュッ……、と火種が水に飲み込まれる音が耳の内側に残る。
「分かってないからこんなことになるんだろ」
何気ない口調で私を咎めた彼は、その腕に支えたままに私をキッチンの換気扇の下から遠ざけた。
踵が引きづられて、起こった摩擦で僅かな熱を持つ。
「寝なよ」
「この時間に眠たくならないよ」
「とっくに2時過ぎてるよ。……その生活習慣も蓮太郎サンの真似?」
「蓮太郎さんは、毎日お昼前に寝てるから」
私のことをベットに放ったあと、雑ながらもタオルケットを掛けてくれる彼を下から見据える。
敷布団とセットになっていた白い羽毛布団は、私の家のソファで寝泊まりしている目の前の彼に「俺分厚い布団じゃないと寝れないから」と奪われてしまった。
視界の中で男の子にしては長い横髪が忙しなく揺れている。
電球が金色の細い髪の毛を照らすから、光に反射したそれが眩しくて仕方がない。
「ゆきはその人になれないよ。ゆきにはゆきの生活があるんだから、この時間には寝てないと明日の学校でキツくなる」
「……分かってるよ」
「何も、分かってないよ」
一言一句変わらないついさっきの言葉を反復させて、私の足のつま先までをタオルケットが覆っていることを確認した世話焼きの黒い眼と、ここでようやく視線が交じり合う。
私を捉えられて離そうとしない、逸らすことができないそれに、息が詰まりそうになった。