夢の中だけでも、その温度に触れたい。
「無駄なことだって何度も言ってる」
やけに真剣な目の色をしている。真剣な分、咎めるというよりももっと別の言葉が似合いそうだった。
口調だっていつになく落ち着いていて。声色も、彼が真面目な時に紡ぐものと同じだった。
本当に全部、分かっている。
ちゃんと分かってはいるけれど、あの人が容易く私の中で消えてしまうから。
「でも、寂しい」
それが寂しくて、悲しくてたまらない。
だってもう、匂いさえも思い出せなくなってしまったのに。
「俺たちがいるのに、寂しいなんて不服」
「……うん。ごめん」
「アイツらも、多分みんなそう思う」
彼が示す“俺たち”は私の大切な友人であり、都合がつけば大学近くに構える私の住むアパートに何泊もしていくような、そんな人たち。
何日も連続で夕飯としてたこをソーセージで代用したたこ焼きを焼いて、ベットとソファの争奪戦を繰り広げて、お世辞にも広いとは言えない部屋で雑魚寝をして、翌日身体が痛いと嘆きながらも慌てて通学の支度をする。
みんなと過ごす時間を決して寂しくは思わないけれど、それでもこの虚無感はあの人が私に与えているものだから。
蓮太郎さん以外、他の何でも拭えないものなのだ。