夢の中だけでも、その温度に触れたい。
想い始めて二年、会う機会がなくなって一年、その間も大好きなまま。――だから
「否定、する。……ダメ人間じゃないよ」
「もう遅い。目、閉じてなよ。おやすみ」
彼の温度を近くに触れられない今が、あまりにも寂しい。
ただただひたすらに、どうしようもないほど、寂しくなる。
彼が散らかった卓上から電気のリモコンを探している物音を聞きながら、ここまでして貰って起き上がる選択肢が無くなった私は大人しく目を瞑ることにした。
やがて軽快なリズム音と共に瞼の外の明かりが消えて、彼がソファに身を沈めた気配を感じる。
「おやすみ」
もう一度私に言ったその言葉に、本来は同じ台詞を返すべきだったけれど。
「ありがとう」
「……どういたしまして」
私が私で無くなる前に、身体を悪くしてしまう前に。
止めようとしてくれている友人の優しさが温かいものだったから。
一言お礼を零して私は枕に顔を埋めた。
髪の毛に染み付いた蓮太郎さんの煙草の香りが鼻腔を擽る。
もう長い間聞いていない豪快な笑い声が脳裏で再生されて、――今日の夜も酷く切なくなるはずだから。
タオルケットが帯びた熱を貴方の温度だって、そう思い込むことにしよう。
……せめて夢の中だけでも、
貴方に会って。その温度に触れたい。
【夢の中だけでも、その温度に触れたい。】fin.