「    」

「ごちそうさまでした」

先程と同じようにぱた、と手を合わせて、また軽く頭を下げる。

ヨーグルトを食べようと思っていたが、目の端に映るインスタントのスープがあまりにも美味しそうで、ついポタージュを飲んでしまった。
全くメニューに合わなかったけれど。
でも美味しいからオールオーケー。


ガチャガチャと音を立てて食器を洗い、部屋へと戻る。

明日は土曜日だが、登校日だ。
面倒くさい。
世間一般的には休日だというのに、どうしてわざわざ勉強をしに学校まで行かなくてはならないのか。


はあ、と溜め息をついて教科書を取り出していると、玄関の方からガチャ、とドアの開く音が聞こえた。
部屋のドアを開けて玄関を覗けば、そこには不機嫌そうに靴を脱いでいる兄の姿。

兄は私の姿を視界に入れた途端、あ、お前か、と呟いた。
ご飯は?と聞けば、食ってきたと返ってくる。
そのまま、兄は私の目も見ずに向かいの兄の部屋へと入っていった。


「ただいま」も「おかえり」もない世界。
こんなものに慣れてしまいたくなかった。

何故不機嫌だったのか。
家に帰らなければいけなかったから?
家にいてもつまらないから?
家には私がいるから?

何も知らない。
でも、知らなくていいことだから。

ガタガタと何かを部屋で兄が動かす音を背に、私も部屋へと戻った。
< 3 / 11 >

この作品をシェア

pagetop