「    」

「おはよう」

女声の機械音が響く3番線。
毎朝見る友人の後ろ姿を発見し、反射的に声をかける。
おはよぉ、と眠そうに笑って返事をかえしてくれる友人。
つい、それに笑ってしまう。
なんだか、久しぶりに笑った気がする。


プーッと音をたててホームに滑る電車。
毎朝見るスーツ姿の黒髪の女の人が今日も隈をつけながら背中を丸めて降車してきた。
土曜日なのに。
休日出勤か。

薄化粧に、地味な格好。
将来的にこうなってしまうのかと思うと、思わず目を逸らした。


電車に乗り込めば所々空いている席。
何か違和感を感じる、と思えば今日は満員電車ではないのだ。
朝、ぎゅうぎゅうに押し潰されて学校へ向かうのは苦痛以外の何ものでもない。
それが無いだけでも、少し体が軽くなる。
なんだ、土曜日でもいいことあるじゃないか。
友人と顔を合わせ、ラッキーと呟きながら二人並んで席へとついた。


隣に座る、母親らしき女性と5歳くらいの男の子。
朝早くから何処かへお出かけだろうか。
その男の子は靴を脱いで立膝となり、窓の外を覗いていた。
しかし、その左手はしっかりと母親の手と繋がっている。
家族が大好きで、大好きでたまらないとでもいうように。
とても幸せそうで、温かそう。

もう、親の体温なんて忘れてしまった。
家で笑いあうことも、幸せだと感じることも。


手をぐっと握り、ぱーっと開く。
その掌をじぃっと見つめれば、大人のでも子供のでもないそれが私の心を掻き回してゆく。
気味が悪い。


そんな私が不思議だったのだろうか。
大丈夫?と私の顔を心配そうに覗いている友人がいた。

大丈夫だよ、と返して私はまた手を強く握った。
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