「 」
「おはようございます」
門に立つ先生にぺこりと頭を下げて、そう声を出す。
わざわざ朝早く来て生徒を見守る先生も大変だな、と他人事のように思った。
そのまま3階分の階段を上がれば、2−Cの教室へと足を進める。
共に来ていた友人に手を振ってわかれ、私はドアを開いて教室に足を踏み入れた。
おはよー、と言えばおはよー、と返ってくる声。
ああ、やっぱりこの瞬間が好きだ。
自分がここにいて良いと認められている感じがして。
いつもの席につけば、またおはよー、と挨拶を交わす。
今日なんの授業があったっけ?なんて他愛もない話を繰り返していれば、ちょっと聞いてよーという声。
昨日さー、カラオケ行ってたんだけどー、親が連絡しろだの早く帰ってこいだのうるさいのー勝手に遊ばせてよってw
分かるーwうざくない?それw
いや、まじでうざいw
どう思う?と聞かれて、いやホントそうだよね、と乾いた笑いを引き連れてそう返した。
私はそんな連絡なんて来たことないよ。
早く帰ってきてなんて、心配されたことないよ。
うざいと思うほど親と喋ったことないよ。
そんなのを出来る方が、羨ましいんだよ。
…あれ、羨ましい、なんて、そんなこと、思うはず、ないのに。
それが、私の家では普通でしょ?
あれ、なんで?
やっぱり、可笑しい。
キーンコーンと鳴り響くチャイムで意識を引き戻し、起立ーという声で席をたった。