「 」
「………」
きぃ、きぃ、とブランコを小さく漕ぐ音が真っ暗な公園に響く。
古くなった街灯がチカチカとあたりを照らしていた。
あー、私、今家に帰ってないんだ。
この行動が正解だったとか、不正解だったとか、そんな答え合わせは今どうでも良くて。
ただ、心があるのかないのか分からないのが嫌だなあ、という感じ。
別にしんどいとか、つらいとかでもない。
幸せでも、嬉しいとかでもない。
なんか、嫌だ。
私をぐるぐると取り巻くその気持ち。
それを払拭したくて、先程の店から持って帰ってきた、もう飲み干してしまったシェイクをゴミ箱にからんと捨てた。
もう人気も少ない夜の9時。
気温も下がってきて、夜の風が私の体から体温を奪い去る。
これから、どうしよ。
なんにもすることなくなっちゃった。
ここにいて、いいのかな。
今になって不安にかられる。
夜をここで過ごそうとか言ってみたものの、どんどんその気持ちは薄れ、家に帰ろうかという迷いが邪魔する。
ふと前を見れば、小学生くらいの男の子。
塾などの帰りだろうか。
大きなリュックを背負って一生懸命歩いていた。
そんな中、あ!と大きな声を出したかと思えば、嬉しそうに笑って手を振りながら前へと走っていった。
その後に聞こえる、「おかえり」という母親らしき女性の声。
この声が聞こえた瞬間、私の中で何かが崩れた。
私「おかえり」って言われたことあったっけ?
家ってさ、私がいてもいいところだよね?
こんなに遅くまで帰ってなかったんだからさ、「おかえり」って言ってくれるよね?
帰らなきゃ。
直感的に感じたそれ。
リュックを引っ掴んで、前を向く。
もう頭は空っぽにして、なんにも考えずに、ただただ足を進めた。
走ったりも、急いだりもしなかった。
家に引き寄せられるように、ただ真っ直ぐ、前に進んだ。
そして着いた、602という数字の前。
「おかえり」って言われたい。
こんなこと、初めて思った。
ねえ、こんな夜遅くに帰ってきたんだよ。
少しくらい、期待してもいいでしょう?
私を迎え入れてくれるでしょう?
私は思い切りドアを開いた。