独占欲強めな副社長は、政略結婚で高嶺の花を娶りたい
私の動揺する気持ちを尻目に、フッと吹き出した父にもう一度視線を戻すと、柔らかく微笑んで言う。
「由莉奈、苦労するかもしれないが、染谷くんを支えてあげなさい。嫌になったら、いつでも帰ってこればいい」
「お父様……」
こんなにも優しい表情を見るのは初めてかもしれない。いつも厳しい横顔ばかり見つめていた気がする。
「心外ですね。心配していただかなくても、帰りたいとは思わせませんよ。帰るときは……そうですね。赤ちゃんが産まれるときでしょうか」
握られていた手は、するりと指が絡められ耳の先まで熱くなる。
「急がなくてもいい。染谷くんに似た孫を見るのは、気持ちが落ち着いてからでないと対処できそうにない」
「いえいえ。社長が孫と遊ぶ体力があるうちの方がいいでしょうから」
どんどん進んでいくふたりの会話に、堪らず声を上げる。
「私、まだ結婚するとは言ってませんから!」
高らかに宣言したはずなのに、海斗さんはゆるゆると笑う。
「いいよ。いつまでも待つから」
絶対にそうは思ってないんだから。そう心の中で悪態をついていると、海斗さんは父に改めて体を向け、頭を下げる。
「由莉奈を『普通の幸せ』にしてあげられず、すみません。代わりに『この上ない幸せ』にしてみせますから」
『この上ない幸せ』
その輪郭を感じられて、胸がじんと熱くなる。
「ああ、楽しみにしているよ」