独占欲強めな副社長は、政略結婚で高嶺の花を娶りたい
「お嬢様なんてやっていると婚約者までいて大変そうだなって思っていたけれど、彼とは大丈夫そうだ」
川瀬では自分の素性は隠していない。みんな私が村岡物産の社長の娘だと知っている。
お店の土地柄、私なんかよりもずっと地位のありそうな品のあるお客様が多いせいもあり、特別視されずに普通に接してくれている。
「えっと、はい。多分」
自信なさげに答えると苦笑される。
「そんな風じゃ、ガッカリするよ、彼。リチャードさんの話をしてみたら」
リチャードさんの件は、まだ正式に決まったわけじゃない。でも、話してみてもいいかな。
和菓子の世界で、私にも出来ることが見つかりそうだって。
帰宅すると、海斗さんは帰っていない。下ごしらえだけしてある食材を料理しているところで、玄関の開く音がする。
「おかえりなさい。遅かったですね」
真っ直ぐに歩み寄り、無言のまま抱き締められる。
「あの。どうされました?」
ふわっと海斗さんの香りに包まれて、ドキドキが止まらない。もう何日も一緒にいるのに、慣れなくて。
背中に回された手が、今一度グッと体を抱き寄せられる。
「うん。やっぱり家に由莉奈がいるっていいな」
「お疲れですか?」
「いや。少し面倒な顧客の対応があっただけだ。ただいま」
挨拶と一緒に軽く唇を重ねると、体は離される。
もう。すごく甘い。どうしたらいいの。