独占欲強めな副社長は、政略結婚で高嶺の花を娶りたい
「待って。忘れちゃった? 古屋さんじゃない」
寄り添う男性にそう訴える声には、元同僚への親愛などどこにも含まれていない。
男性は興味なさそうに視線を寄越し「誰?」と非情な言葉をこぼす。
私だって同じだ。名前すら思い出したくないのだから。
〈由莉奈。あなたが関わる必要はなさそうです。向こうに行きましょう〉
助け舟を出してくれるリチャードさんに肩を抱かれ、行こうとすると呼び止められる。
「なによ。待ちなさい。ゴミ、捨てておきなさいよ」
グッと突き出される包み紙。そのくらい、カバンかどこかに入れておけばいいのに。
ふたりが参加するかもしれないと、そこまで考えが及ばなかった。でも、惨めに思う必要はない。私には任された催し物を成功させるという、大切な役目がある。