独占欲強めな副社長は、政略結婚で高嶺の花を娶りたい

 着物に着替え急いで会場に戻ると、式典を取り仕切る総合司会の方が立食パーティーについての説明をしていた。

 川瀬の和菓子についても、食事と同じ流れで紹介がある。
 自分が喋らなくても、担当した人間として、その場にはいたい。

 参加者は各々、小皿を手に目ぼしい料理を選びながら話を聞いている。

「デザートにつきましても、趣向を凝らしております。ケーキはホテル専属のパティシエが腕を振るい……」

 ケーキの説明に入り、和菓子についてもそろそろだろう。
 ケーキは食べやすいようにプチケーキになっており、彩りが華やかでどれも美味しそうだ。

「今回の式典では、外国の方も多いこともあり、日本の食文化に触れていただこうと、デザートに和菓子も用意いたしております」

 いよいよだ。会場の隅で、司会者の言葉を聞く。

 食事を楽しんでいる人や、歓談している人もいるため、みんながみんな聞いているわけではないけれど、少しでも良さが伝わるようにと、心の中で祈るような気持ちになる。

「この和菓子は、先ほど素晴らしいご報告がありました、新副社長の染谷海斗さんの婚約者でいらっしゃる由莉奈さんが企画運用してくださいました」

 思わぬ紹介に、周りから声が上がる。聞こえるのは、概ね好意的な言葉。
 私も心構えがなく、俯きそうになる顔を上げる。

 前を向いていなければ、今は誰も私を見ていないとしても、川瀬の顔なのだから。
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