独占欲強めな副社長は、政略結婚で高嶺の花を娶りたい
着物から洋服になり、お手洗いも済ませておこうと通路を歩いていると、名前を呼ばれ振り返る。
「古屋さん。というか、村岡さん?」
声をかけてきたのは元婚約者の方。卑しい笑みを浮かべ、近づいて来る。本能的に後退ると、構わずに距離を詰めてくる。
「社長の娘と知っていたら、あんな女にはなびかなかった。よく見れば、可愛いじゃないか」
あんな女と、どの口が言うのだろう。
この人に可愛いと言われても、喜びの感情は湧かない。嫌悪感が増すばかりだ。
私が村岡であり、社長の娘だと誰かから聞いたのだろう。社長の娘と知って、態度を改められたとしても、二度とお近づきになりたいとは思わない。
お手洗い前の通路には、運悪く私たちしかいない。