独占欲強めな副社長は、政略結婚で高嶺の花を娶りたい
やっとマンションに帰れる。今は一刻も早く落ち着ける場所でホッと息をつきたい。その思いとは裏腹に、今度は別の人物に絡まれる。
「どうせ父親の口利きなんでしょう?」
絡まりつくような声は、早坂さんだった。反省していないのか、元婚約者の方も隣にいる。
海斗さんは低い声で「どの面下げて、ここにいるんだか」と、私だけにしか聞こえない音量で呟き、不穏な空気を感じて冷や冷やする。
「いいわよね。社長が父親って。全部思い通り。どうせ私はあんたの使い古ししか、回ってこないんだから」
早坂さんは悪態を吐き、今は早坂さんの婚約者である彼もさすがに居心地が悪そうな顔をしている。
立食パーティーの場でお酒を飲み過ぎていたのかもしれない。ここまで周りが見えない人だっただろうか。
「染谷さんだって、本当はこんな女がいいわけじゃないでしょう? 会社同士の繋がりで仕方なくよね。かわいそうな人」
そこまで話し、にやりと口の端を上げる。
「そうね。今度もまた、私が慰めてあげようかしら」
体に纏わりつく声が、腕を這い上がってくる。婚約破棄された当時の嫌な気持ちまで、思い返したくない。
「聞くに耐えないな」
海斗さんが冷ややかな声で告げると、また別の声が私たちの間を切り裂く。