独占欲強めな副社長は、政略結婚で高嶺の花を娶りたい
「染谷くんが良ければ、喜んでお譲りします」
父の声がして、それから先ほども一緒にい染谷社長までも姿を現す。そして自分の息子を歯牙にも掛けない様子の私の父に、不満を漏らす。
「なにを言うんだい。私こそ、なかなか結婚を決めない海斗が、やっと心に決めたと思ったら、まさか」
ため息を吐く染谷社長に、うれしそうに早坂専務は便乗し、鼻先で笑い飛ばす。
「そうですよね。和菓子の売り子などと……。それでしたら、うちの娘などどうでしょう」
大袈裟で明るい声の余韻は、胃をキリキリと痛めつける。染谷社長は、私たちの関係を認めていないのだろうか。
思えば染谷家への挨拶は、あとでいいとさせてもらえなかった。
それは、反対されていたから?
染谷社長は『たかが和菓子』と蔑む人なのだろうか。
私の大切な夢。それに誇りを持って働いているかけがえのない人たちまで、侮辱されるの?
早坂専務のいやしい笑みから顔を背け、なにを言われてもせめて涙は見せないように心構えをする。