独占欲強めな副社長は、政略結婚で高嶺の花を娶りたい
海斗さんは、つきっきりで教えてくれる。インストラクターの聡さんからは、最初の注意点を教えてもらったくらいだ。
「俺、用無しだろ」
近くでシュノーケリングを楽しんでいた聡さんが、からかうように私たちに声をかける。
「いや、俺さすがに女物のウェットスーツは持ってない」
「おいおい。ウェットスーツのためだけか」
軽いノリで言い合うふたりに、割り込む形で意見する。
「あの、海斗さんも好きに泳ぎたいですよね。私は聡さんに教えていただくので」
この状況、聡さんから教わるのが普通だ。ついつい海斗さんに頼ってばかりの自分の気遣いの無さに気づく。
「いいんだよ。甘えてって言ったよね?」
咎めるような声色なのに、向けられる眼差しはどうしてこんなに色っぽいの?
八つ当たりしたくなるような色気を前にして、自分の言い分はしゅるしゅると泡となって消える。
そして、私にだけ聞こえる声で「聡が由莉奈ちゃんの手を握るのを、見ていたくない」と囁かれ、このままブクブクと深海へ沈んでいきたくなる。
顔が熱くてたまらない。
「あ、今、悪い顔してる」
海斗さんの囁いた声は聞こえてないはずなのに、一瞬の変化さえも見逃してくれない聡さんは、私たちの空気感の違いのようなものを察知する。
「悪い顔なんてするわけないだろ」
私を隠すように腕を回され、守られているみたいな錯覚に陥る。
ダメだよ。こんなの恋に落ちない方が無理。