独占欲強めな副社長は、政略結婚で高嶺の花を娶りたい
「どうしたの? 席がわからない?」
固まっている私の様子を窺う染谷さんに頭を下げ、「すみません。邪魔ですよね」と自分の座席に入る。気付けば、少しの間とはいえ通路を塞いでいた。
「きみ、ここの席? 隣だ。よろしくね」
胸が高鳴りそうな微笑みを浮かべ手を差し出されたせいで、感激する気持ちと落胆する気持ちとか綯交ぜになる。
村岡物産で働くにあたり、名前は母の旧姓の古屋を使っていたし、とにかく目立たないように地味に地味に過ごしていた。目立ちたくなくて黒髪ボブのウィッグを用意してまで、存在感を消すように心掛けていた。
私の地毛は栗毛のふわふわ天然パーマ。今は隠す必要がないから、肩のあたりで揺れている。
普段は伊達眼鏡もしていたし、雰囲気が違うはずだから、気付かなくても当たり前。
それに営業部にいた人気者の染谷さんと、総務部の私では、素の自分で過ごしていたとしても知らないのが当然なくらい接点はほとんどない。
差し出された手をマジマジと見つめ、気を取り直して自分の手を重ねる。
「短いフライトの間ですが、よろしくお願いします」