独占欲強めな副社長は、政略結婚で高嶺の花を娶りたい
旅の恥はかき捨て、たはず
四泊五日の石垣島旅行を終え、東京に戻ると私は行動を起こした。
前から気になっていた和菓子の世界に飛び込んだのだ。洋菓子の華やかなデザートも好きだけれど、和菓子は優しい佇まいから全てが好きだった。
村岡物産に勤めている頃から、小腹が空いたときに干菓子をつまむくらいに好きで、私も和菓子に携わり、食べてくれる人の笑顔を見たいと考え始めたのがきっかけ。
もう村岡物産には戻れない。そもそも痛々しい婚約破棄を職場に否が応でも知られている私は、腫れ物を触るような対応でとてもスムーズに退職手続きを済ませられた。
二度と行きたくないと思っていた会社なのに、ふとあの会社にいれば『染谷さん』の姿を盗み見ることはできたんだなあと残念に思う。
あれから海斗さんには、連絡していない。もらった電話番号の書かれた紙は大切にしまってある。
度々見返しているために擦り切れてしまいそうで、慌てて透明の薄いカードケースに入れた。もう番号を覚えてしまうほど眺めている。
そして海斗さんに借りたウィンドブレーカーも、誰にも内緒で私の部屋のクローゼットの奥の方に入れてある。私の方が石垣島への滞在が長く、『また次に会えた時に返してくれればいいよ』と言われたまま。