独占欲強めな副社長は、政略結婚で高嶺の花を娶りたい
そんな風に若干腐っていた頃に、出向いていた村岡物産。
社長室を訪ねた際、応対した女性に興味を持った。
背が低く華奢で、下手したら見落としてしまいそうなほどに地味にしている。
黒髪と洒落っ気のない黒縁眼鏡。制服も正規の着こなしから外れないような、どこか野暮ったい身なり。
そうであるのに、品があった。
手が空いた者が、打ち合わせ場所までの案内とお茶出しをするシステムなのだろう。行くたびに必ずその彼女というわけではなく、たまたま彼女が対応するときの細やかな気遣いに清々しい気持ちになった。
緑茶を出される日もあれば、珈琲の場合もあり、茶托やソーサーに控えめなお茶請けがあるのにも心配りを感じた。
緑茶は干菓子、珈琲はチーズケーキなど、どちらもひと口でつまめる程度の大きさで、そのちょうど良さと飲み物に合う絶妙な組み合わせに唸るほどだ。
後々に、その女性が由莉奈だと知る。
村岡物産の社員として働くようになってからは、機会を見て『出張土産』だと言い訳して、お菓子を差し入れた。
『総務のみんなで食べさせていただきますね』と言う由莉奈に、俺の真意は敢えて伝えないまま。そうこうしているうちに、由莉奈は婚約してしまった。