独占欲強めな副社長は、政略結婚で高嶺の花を娶りたい

 店に着くと従業員用の裏口から入り、挨拶を交わす。

「おはようございます!」

「おはよ。朝から元気ね」

 半分は空元気。暗い顔でいたら、周りの人に心配をかけそうで忍びない。ただでさえまだ見習い。挨拶だけでも、人一番元気よく言いたい。

 私の現在の勤め先である和菓子屋『川瀬』は、老舗の和菓子店から暖簾分けした今話題のお店。

 高級感漂う上質な複合タウンの中には、日本の古き良き文化を世界に発信するための名だたる老舗店や有名店が軒を連ねているテナントがある。

 その中に川瀬は店を構えている。

「あ! 桜餅! 今日からですか?」

「さすが由莉奈ちゃん。目ざといね」

 ショーケースには、早くも先取りした春が並ぶ。苺大福に、菜の花、うぐいす、ぼたん。

 目にも楽しい和菓子に囲まれ、自然と頬が緩む。

 海斗さんに連れられてきた高級マンションから、広いとはいえ同じ敷地内のにあるお店。もしかして勤め先を知っていた? とも思ったけれど、真相はわからない。

「奥に行って翼さんを手伝ってくれる?」

「はい。わかりました」

 まだまだ新米。覚えることが多く、お陰で海斗さんとの関係を深く考えずに済むのは、とても助かった。
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