独占欲強めな副社長は、政略結婚で高嶺の花を娶りたい

 また新たなお客が来店され、雑談はここてストップ。笑顔で声をかける。

「いらっしゃいませ」

 浅見さんは和菓子を選び始めたお客に歩み寄り、丁寧に季節のおはぎについてお勧めしている。その姿を見て、私も頑張らなくちゃと奮起した。

 午後からは小雨が降り出し、客足も遠のいている。細かな春雨が地面を濡らし、傘をさす人々が足早に過ぎ去っていく。

 こんな日は、棚を拭きながら季節物の饅頭の側に立てかけてある説明書きを真剣に読み込む。頭に入っている文言をどのようにわかりやすく、美味しそうに伝えられるか考えながら。

 原材料は北海道産の厳選した大豆を使用しておりますって言うと、美味しさがより伝わるかな。
 それを言い始めると職人が丹精込めて作っていますとか、伝えたい内容はたくさん出てきちゃうのよね。

 そんなことを思いながら、午前中に来店した英国紳士を思い出す。

 英語の説明書きを増やすのも、いいかもしれない。

 和菓子について考えると、幸せな気持ちになれる。先ほどの男性も、和菓子を食べて少しでも幸せを感じてもらえているといいな。
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